第32章 3億を失う

技術部長は大きく息を吸い込んだ。

「月見です」

有川紘樹の動きが、わずかに止まる。

月見。国内外にその名を轟かせる、トップクラスの女ハッカー。

「……なぜ急に、有川グループを狙う?」

有川紘樹の目が鋭く冷える。

部長は首を横に振った。

「わ、わかりません。相手の技術が強すぎて……こちらは歯が立たず、機密ファイルを丸ごと抜かれました……」

有川紘樹は数秒、黙り込む。

「寒夜を呼べ」

寒夜は、外部で雇っているハッカーチームの中でも最上位の一人だ。

ふだんなら、まず出番はない。

技術部長もわかっていた。社のエースを動かすのは、手に負えない厄介事が起きた証拠だ。慌てて人を呼び...

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